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東大の名誉教授が語る「通信制高校の可能性」

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一昔前まで、高校を選ぶ基準は「偏差値」と「地域」でした。ほとんどの中学生は家から通える場所にあり、自分の学力レベルに合う高校を自身の将来を周囲からのアドバイスを元に考え受験することが一般的な進学ルートだったと言えます。
しかし、ニーズの多様化や法改正により、通信制高校のイメージが「勤労学生の通う学校」から「不登校になった生徒が通う学校」へ。そして令和になり「やりたいことにチャレンジできる学校」へと変化。人口減少に伴い高校の新規入学者数が毎年減り続けている中で、通信制高校への入学者は増えています。 その傾向はここ数年でより顕著になり、2018年までは約18万人で推移していた通信制高校の生徒数は、2019年に19万人、そして2020年には20万人を突破しました。

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(※文部科学省:学校基本調査)

この状況に、ロボット研究の第一人者で東京大学の名誉教授を務める佐藤知正先生は、「世界の潮流であり必然の流れ」と話します。
高校生の人数が減る一方で、なぜ通信制高校が進学先の1つとして選ばれるようになったのか。佐藤先生は、通信制高校だからできる教育内容からその理由を読み解き、そこで学ぶ生徒たちに大きな期待を寄せていました。

通信制高校なら、柔軟なカリキュラムでPBLを実践できる。

通信制高校へ入学する生徒が増えているのは、自分の好きなことに全力で取り組める場所として認知されてきたからです。誰もがインターネット上の膨大な情報にスマホで簡単にアクセスできるようになり、興味のあることを見つけやすくなりました。学びのニーズがどんどん多様化する一方、ゲームや漫画、eスポーツなどを本気で学ぼうと思ったら、中学生の進路の選択肢は通信制高校しかありません。 そして、生徒1人ひとりが役割をもち、チームで技術開発や課題解決に取り組むプロジェクト型授業(PBL:Project Based Learning)のように、全日制の普通科高校とは異なる教育が受けられるようになったことも通信制高校が選ばれている理由の1つだと思っています。

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を筆頭に、現代社会に重要な役割を果たしているグローバルIT企業はさまざまなプロジェクトチームを立ち上げて新しい技術の開発と価値の創出に挑んでいます。仮説を立て製品をつくり、検証とアップデートを図りながら社会に貢献するモノやコトを提供していく。この流れを受け、世界の教育現場ではプロジェクトをベースに考える力と実践力を養う授業が増えています。

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例えば、デンマークでは小学生の頃からグループワークを行い、子どもたち1人ひとりの自主性を伸ばしてきました。思いついたアイデアを自由に発表でき、学校はそれを個性として認める。そうした教育は自立心を養い、デンマークには多くのベンチャー企業が誕生しています。

日本でも生徒が能動的に授業に参加するアクティブラーニングが学習指導要領に盛り込まれるようになりましたが、全日制の普通科高校ではすでに定まっているカリキュラムを再度組み直すことは時間的にも環境的にも非常に難しい。本格的なグループワークはあくまで課外活動として行われているのが実情です。 これでは、ビジネスやモノづくりの最前線で世界と競える人材を育てることは難しいでしょう。基礎を学んでから応用へステップアップする暗記型授業(SBL:Subject Based Learning)に慣れすぎると、「自分で仮説を立て検証する」という作業にうまく対応できないのです。

そこで期待されるのが、カリキュラムを柔軟に組める通信制高校というわけです。 授業の一環でゲームやアプリをつくったら、小学生に遊んでもらう。そうすれば、より多くの小学生に自分がつくったモノを楽しんでもらおうと小学生のニーズを探ります。検証と改善を繰り返すうちに情報時代の基礎学力もつきますし、次第にコストや教育効果にも目が向くようになる。これは企業における商品企画の常識で、高校生のうちから試行錯誤することで将来にわたって役立つスキルを習得できます。通信制高校なら正規の授業としてPBLを展開できますし、すでに実践している学校もあります。 今後は、「モノづくりを通して多くの人に喜んでもらい、社会に貢献したい」と真剣に考えている中学生ほど、通信制高校を選ぶようになるのではないでしょうか。そして、そんな生徒の中から世界を舞台に活躍する人材が出てくるはずです。

PBL SBL
スタイル 課題解決型 暗記型
学習順 仮説→検証の繰り返し 基礎→応用へステップアップ
回答 複数 1つ
目的 解決までのチャレンジが目的 問題解決
学習者 1人~グループ 基本的に1人
方法 ディスカッション・体験 板書

学歴社会は崩れ、“学習歴社会“がやってくる。

最新の研究で、人間の脳は考えるだけで強化されることがわかりました。つまり、人間は自分で脳をつくりながら生きている、ということです。
教わったことを、もう1つ深く考えてみる。そうした癖をつけるには、技術を身に付けたり何かをつくった際はコンテストに参加するのが効果的です。
頑張ってロボットをつくったのにコンテストで敗退したら悔しくて、「なぜ負けたのか」と考える。何を、どう変えれば勝てるのか。次へ活かす方法を模索し思案することで、その生徒は「コンテストで勝てるロボットのつくり方」を、その基礎となる学力とともに学ぶという学習歴を積んだことになります。

これからは学歴ではなく、「何を、どう学んできたか。どんな経験を積んできたか」、また「学び続ける」という学習歴が問われると言われています。大学受験や就職活動の選考をはじめ、働くようになってからも学習歴によって任されるプロジェクトの成果は大きく変わるでしょう。
学習歴を深めるには、何よりも好きなことに取り組まなければなりません。好きなことであれば失敗を糧にできますが、興味がなければ諦めてしまうからです。
その点でも、生徒1人ひとりが自分の好きなことにチャレンジできる通信制高校の重要性はますます高まっていくでしょう。

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1つ、興味深い話があります。
日本の教育課程で、OECD(経済協力開発機構)から高く評価されている学校があります。それは、高等専門学校です。
高専では16歳から仲間と一緒に手を動かし、技術を体験的に習得します。早いうちからインターンも行い、将来の職業に向けて5年間“陸続き”で学べる。この教育に、OECDは日本のモノづくり大国を可能にし、すぐれたエンジニアが育った理由と見出しているのです。

社会も、学習ニーズも多様化する中で、例えば通信制高校から大学へ進学し、7年間ずっと好きなことを追求していけば、大学を卒業する頃にはきっと社会に求められるスキルが備わっているでしょう。
通信制高校でPBLに慣れていれば大学でもチームを主導する立場になるはず。その経験もまた1つの学習歴となり、社会へ羽ばたく上での強固なベースとなるのではないでしょうか。

「中学を卒業したら、好きなことを仕事にするため、その仕事に必要なスキルを身に付けるために、通信制高校へ行く」
そう選択する中学生はこれから増えていくでしょうし、そうなることは日本という国が世界の中でもっと強く、豊かになっていける方法である、とを期待しています。

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