
「通信制高校」と聞いて、みなさんはどのようなイメージを持ちますか?
きっと、不登校をはじめ、さまざまな事情を抱えている子が多い…そんな意見が大勢を占めるのではないかと思います。
では、「通信制高校の先生」にはどのようなイメージを抱くでしょうか?
これからご紹介する『NHK学園』と『翔洋学園』には、それぞれの学校で生徒から「接し方」を学んだ先生がいます。
先生の姿を通し、通信制高校の「今」を見ていきましょう。
コミュニケーションを生むために。
NHKが昭和37年に設立した日本最初の通信制高校――それが『NHK学園高等学校』です。Eテレやラジオで放送される「NHK高校講座」を視聴することが単位につながり、全国で放送される番組内容は同校の先生が番組スタッフと一緒に考えています。
同校で書道を教えている川合先生も、その一人。
先生によると、生徒が集まるスクーリングでは決して怒ることがないようです。それは、何も言わなくても黙々と書道に取り組む生徒が多いから。だからこそ、逆にスクーリングでしかできないことを経験してもらおうと、生徒たちが話し合う環境づくりに努めています。
例えば、2つの字を比べて「どっちの字がキレイだと思う?」と先生から語りかけたり、みんなでうまい人の字を見たり。そうして自然とコミュニケーションが生まれる機会をつくっているのです。
『翔洋学園高等学校』は、いじめや不登校、高校中退者が社会問題となる中、平成12年に茨城県内初の私立通信制高校として開校しました。「生徒の居場所をつくる」という想いのもと、いつでも好きな時に通える学習センターを全国で初めて導入し、いまでは1都16県で多くの生徒が学んでいます。 そんな同校のモットーを体現しているのが、水戸学習センターの磯先生です。学校を「家の次に居やすい場所」に感じてほしいと考え、スクーリングだけではなく担当学年の入学相談にも応じ、生徒や保護者から事情を聞いた上で学校に合うかをアドバイスしています。
磯先生の親身な対応によって入学を決めた生徒も多く、先日も3名の卒業生が学校へ遊びに来て「いまがんばっていること」を報告してくれたそうです。

培ってきた経験を、生徒の力に。
両校の先生に共通しているのは、「生徒のための力」を養うべく、柔軟に生徒たちから学んでいることです。
『NHK学園高等学校』の川合先生は、当初「担任としてクラスをまとめなければ」と考えていたそうです。しかし、通信制高校にはそうした先生の言動をプレッシャーに感じてしまう生徒がいます。その心の繊細さに気付いた川合先生は、常に生徒とほど良い距離感を保ちながら「無理して人間関係を築こうとしなくて良い」と話すようになりました。そして、自分自身がマイペースを貫くことで、「君もマイペースで良いんだよ」と教えるそうです。
人として芽が出る時期は、千差万別。高校在学中でなくとも、卒業後、あるいは20~30年後でも、その生徒のペースで1つひとつステップアップできるよう促しています。
また、『翔洋学園高等学校』の磯先生も、同校への赴任当初に1人の女性との出会いがありました。その生徒は仕事と子育てをしながら同校に通い、「一体いつ寝ているのか?」と不思議になるほど多忙を極めていたそうです。
自分より年上の生徒がいまを懸命に生きる姿に感銘を受け、「年齢は関係ない。先生と生徒という立場の違いも関係ない。ただ、1人の生徒として自分にできるサポートをしたい」と心から思うように。願いにも似たこの時の強烈な想いは、いまも磯先生の中でご自身の原点として生き続けています。
2人は共にじっくりと生徒に向き合い、自分にできることを模索してきました。そして、生徒たちから学んだことをまた次の生徒たちのために活かしています。 通信制高校にはいろいろな生徒がいます。ただ、それは同時に洞察力や対応力など、先生たちの経験値も高めているのです
テストや部活で競い合うことが常となっている全日制の学校では、同じ学校に通う仲間といえども同級生の存在が大きなプレッシャーとなる場合があります。閉鎖的な環境ゆえ、人間関係の構築などに失敗すると、どうしても次の行動を起こすことに躊躇するようになります…それは仕方のないことかもしれません。
でも、そこで躊躇するのは繊細でやさしい心を持っているから。両校のような通信制高校では、その繊細さも1つの個性として扱い、「自分らしくあること」を尊重します。
また、「挫折したことがある」という経験は1人ひとりの人間性にも深みを与えるのか、大勢の生徒が集まるスクーリングの時も決してイジメのような新たな問題は起きないそうです。
その背景には、川合先生や磯先生のようにとことん生徒たちのことを考え抜き、時間をかけて関係性を築いてくれる先生たちの存在があります。 子どもを通信制高校に行かせるべきか悩んでいる保護者の方も、こうした先生たちとコミュニケーションを図ることで新たな発見があるかもしれませんよ。