
2019年4月、新たな通信制高校が誕生します。京都造形芸術大学を母体とする『京都芸術大学附属高等学校(旧:京都造形芸術大学附属高等学校)』です。
「芸大附属の高校ということは美術やデザインを勉強する学校なの?」と思う人もいるでしょう。いえいえ、そうではありません。
この学校が目指すのは、芸術教育におけるデザイン思考を普通科目に取り入れ、社会変革を起こせる人材を育成すること。
「デザイン思考ってなに?」「今はそんな大きなことまで考えられない」
中学生の皆さんにとっては、当然のように生まれる疑問や気持ちです。そこで今回は、同校の樋栄ひかる校長にお話を伺ってきました。そこには、今までの学校や授業のイメージを覆すワクワクが待っていました。
「間違うことが恥ずかしい」が存在しない授業

『京都芸術大学附属高等学校(旧:京都造形芸術大学附属高等学校)』は、自信を持って将来の目標にチャレンジできる自分を作っていくことを目指す通信制高校です。その根底には、母体となる京都造形芸術大学と同様に「想像力」と「創造力」を養うという理念があります。
学びのスタイルは月・水・金の週3日、午前か午後に通学するのが基本で、その他の時間は選択科目の履修や自習、自分の好きなことに使うことができます。生活リズムを作るためにこのような枠組みを設けていますが、まずは自分のペースで通学するところから始めることも可能です。
自学自習で進める課題を提出し、規定回数のスクーリングをして卒業を目指すのは他の通信制高校と同様ですが、この学校の魅力は授業にこそあります。
樋栄校長:
「当校の授業は生徒が主体的に参加するものにしていきます。間違うことを恐れず、周りと異なる意見を出すことに恥ずかしさを感じないような、むしろそのプロセスこそ賞賛されるような授業です。ですから教師が一方的に話をし、生徒がそれを黙って聞いているような授業は行いません。私はこれまで、さまざまな場所で“教える”役割を担ってきました。その経験をふまえて言えるのは、学ぶ楽しさや学ぶ意味を感じることの大切さです。いい点数を取ることだけを目標にするならば、ひたすら授業を聞いて、あとは自分で勉強を進めればいいでしょう。でもそれは本来の意味での“学び”ではないと思います。なぜこの公式を覚えなければいけないのかわからないけれど、とりあえず受験に必要だから覚える。そうではなく、『なぜ覚えるのか?』という疑問から、想像と創造を生み出していけるような環境を整えていきます」
デザイン思考は、目の前の人を笑顔にすること
あらゆる学びや体験をきっかけに想像し、創造する。デザイン思考とされるこの考え方は、今、社会で強く求められていることに通じます。
樋栄校長:
「社会の問題に対し、デザイン思考を持って課題解決に向かえる力はとても貴重です。デザイン思考は芸術に限ったものではありません。人間は生き様すべてがアート。“Art of Life”という言葉もありますが、人と人とがより良い関係を作っていくこともアート、そのための感覚自体もアートであり、アートを生み出すために必要なのが想像と創造です。目の前の人が笑顔になるためには何をすればいいかを想像し、アプローチの方法を創造する。これがデザイン思考なんです。」

樋栄校長:
「その一例にトイレの標示があります。言葉を使わずに男性用と女性用の区別をするべく丸や三角で人型を作り、青と赤で色分けがされていますが、LGBTの人にとって、男性が青、女性が赤という色分けは果たして納得感があるのでしょうか。
どうしたらすべての人が心地よくトイレに入ることができるかを想像し、解決策を創造していくデザイン思考は、このような場面で活用できます。」
想像力と創造力を養うための授業は、教科の枠さえ超えた学びの可能性もあるとのこと。例えばある数式について学ぶ時、「これはいつの時代に、どうやって生み出されたものなんだろう」と想像力を働かせれば、社会背景を勉強することにつながります。その時代のことを書いた文献が英語のものしかないならば英語の勉強に。さらには数式を使って造形物を作ってみようという美術の学びにも発展していく。同校の授業はこれまでの教科の概念を超えた、ボーダレスなものになりそうです。
人を思いやる前に、まずは自分を肯定する
想像力と創造力は、いろいろなものを見聞きし、たくさんの人と出会い、語り合うことで身につきます。ここまでは、きっと多くの人がイメージしやすいでしょう。しかし樋栄校長には、さらに一歩進んだお考えがありました。
樋栄校長:
「私が大切にしているのが“Yes,And”という考え方です。想像力は思いやりという言葉に置き換えることができますが、相手に対して思いやりを持つということは、自分自身を受け入れ肯定する=“Yes”するところからスタートします。まずは周りに振り回されない自分を持つ。その上で、誰かとコミュニケーションをとるときにはフラットに、自分のことは一度手放して相手を受け入れる=“And”で返す。そうすることで、もっと深いレベルで対話ができるようになります。自分のことが見えているからこそ、相手を受け入れられるようになるんですね。自分を受け入れることは、もしかすると今できないことを認めるという苦しいステップになるかもしれません。しかし、できるようになりたいという意志さえあれば必ずできるようになる。それを感じてもらえる学校にしていきたいと思っています」

樋栄校長:
「今や人の能力をIQ(知能指数)だけで測る時代は終わりました。心の知能指数ともいうべきEQ(Emotional Intelligence Quotient)の高い人が社会をリードする事例が増えています。
EQとは、言い換えれば人の心を思いやり、慮る力。このような力を持つ人がリードすれば社会にはもっと感動が生まれ、その感動からまだ見ぬ何かが生まれてくるはずです。」
教師も一緒になって学ぶ学校

これらの教育を実現するべく、同校では教員自身の能力向上にも力を入れています。
樋栄校長:
「うまくその場をやり過ごすだけの子どもが多いと感じています。でもそれは子どもたちのせいではありません。さまざまな環境がそうしてしまっている。ですから当校では指示命令型の授業は行いません。前述のように、対話が生まれるような授業を理想とします。このような授業では生徒も一生懸命考えて参加する必要がありますし、教師側も、いつどんな意見や疑問が出ても対応できるように勉強や訓練を重ねていく必要があります。生徒に対し『何も考えず、とにかく覚えろ』と言うような教育は、私たちの中にはあり得ません」

社会をリードする人材を育てるためのリーディングハイスクールを目指して。もっと知りたい、もっと学びたいと思えるような環境を作り、学ぶ楽しさや本当の意味での人生の豊かさを見つけてもらえるように。
『京都芸術大学附属高等学校(旧:京都造形芸術大学附属高等学校)』では、“場づくりのデザイナー”としての先生たちがあなたを待っています。
通信制高校を選択する人の中には周囲と関わるのが苦手という人もいるでしょう。この記事でご紹介したように、『京都芸術大学附属高等学校(旧:京都造形芸術大学附属高等学校)』には対話を重視する姿勢があります。この点について樋栄校長に伺ってみると……
「コミュニケーションが苦手な人には徐々に慣れていけるステップを設けますし、いきなり嫌なことをやれ!というようなことは絶対にありません。むしろ気づいたら主体的になっていた、という方が正解だとも思います。場づくりのエキスパートがサポートするので安心して入学してください」
とのこと。
また、同校に入学すると隣接する大学の施設なども利用できるので、進学を考えている人にとっては、一足先に大学生活のイメージをつかめるチャンスにもなりそうです。